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100時間の壁

こんばんは。 ペルダ・コンサルティングの古橋です。

残業時間の上限規制について、政府の「働き方改革実現会議」で実行計画が決定されました。

これまで法的強制力の無かった「月45時間、年間360時間」という時間外労働の上限について、初めて法律に明記されます。 また、これまで青天井であった36協定の特別条項が見直され、繁忙期でも「月に100時間未満」を上限とすることが盛り込まれています。 今年中に労働基準法の改正案が国会に提出される見通しです。

上限規制と言いつつ、(繁忙期のみとはいえ)月に100時間もの残業を認めるという政府の改正案には、批判の声も上がっています。 特に、電通の元社員、高橋まつりさんの母親は、明確に反対するコメントを出しています。 過労自殺のために家族を失った胸中は、察して余りあります。 ほぼ月100時間までの残業を国が認めたという事実は、受け入れがたいものがあるのでしょう。

この残業時間規制のニュースを耳にするたび、僕は昔のことを思い出します。 遥か昔、まだ20代の頃の数年間、勤めていた会社のことです。 ディスプレイ関連の設計・施行を行う会社でした。 スーパーや商店街、デパートなどの飾り付けが主な業務内容です。

繁忙期は、七夕とクリスマスでした。 七夕の場合は6月から7月。 沼津の仲見世商店街が主な仕事場で、バカでかい笹飾りを作って取り付けていました。 クリスマスの場合は10月終わりから12月。 静岡の呉服町商店街を始めとして、県内のいたるところにこれまたバカでかいクリスマスツリーを立てに駆けずり回りました。

この二つの時期、月の残業時間が100時間を超えることなど当たり前だったのです。

仕事内容は、ほぼすべてが肉体労働でした。 僕はただただ懸命に日々の仕事をこなすだけでした。 だんだん自分が疲れているのかどうかすらよく分からなくなり、その頃のことは正確には覚えていないのですが、とにかく「体中が痛かった」ことだけは覚えています。 僕は毎日、この地獄の季節が過ぎゆくのをただただ耐え忍んでいたような気がします。

にもかかわらず、このときの仕事が決して「嫌な思い出」と言いきれないのは、ひとえに先輩方に恵まれていたからかもしれません。 その頃の先輩方とは、今でも年に一度くらい飲みに行きます。 先輩方も、今はその会社を退社し、それぞれ別々の道を歩んでいます。 いい職場だったらみんな辞めていないわけで、別に仕事で特に楽しい思い出が有るわけでもないのは、共通したところだと思います。 でも、昔と変わらない先輩・後輩の立場でバカ話をするのが、毎年の楽しみになっています。

また、なんとなくのんびりした雰囲気のある会社でもありました。 その会社は、30分単位で残業代が計算される仕組みでした。 日付の変わる5分前にようやく仕事が終わり、タイムカードを押そうとすると、社長が缶コーヒーを手渡しながら、 「あと5分待って押したらいいよ」。 どちらかといえばそんなことより早く帰りたかったのですが、まあ、そんな会社でした。 まだ若い僕にとって、少なくとも精神的には恵まれた職場だったと思います。

先の電通の事件の場合は、長時間に及ぶ時間外労働だけでなく、上司からの激しい叱責・パワーハラスメントが自殺の要因として取り上げられています。

「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」 「会議中に眠そうな顔をするのは管理ができていない」 「髪ボサボサ、目が充血したまま出勤するな」 「今の業務量で辛いのはキャパがなさすぎる」

個人的には、こんなことをのたまう上司の下では月に10時間の残業でも耐えられる気がしません。 月に100時間超の残業を僕のような豆腐メンタルが乗り越えられたのは、一重に先輩・上司のおかげと言えます。

たとえ過酷でも仲間と共にお祭り騒ぎで過ぎていく100時間と、上司からの罵詈雑言と激しいプレッシャーに苛まれながらの100時間とでは、長さは同じでも「時間の質」がまったく違います。 早く仕事を終わらせようと皆で頑張る残業と、早く帰りたいのに上司や周りの目を気にして帰れない残業とでは、帰る時間が同じように遅くても、質がまったく違うのです。

長時間労働を抑制するためには、法による上限規制も確かに必要です。 でも、残業時間の多寡だけでは計れない「職場のメンタルヘルスケア」についての議論が置き去りにされている気がしてなりません。

「働き方改革」。 残業時間の上限規制と罰則ばかりが取り上げられていますが、パワーハラスメントやメンタルヘルスケアの問題にももっと目が向けられなくてはならない、と強く思います。

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